海に、種をまく-アサリの育つ海-
2022年3月4日、海辺を守る会の活動が、潮の引いた長島の浜で行われました。
集まったのは、大崎内浦漁業協同組合の漁師さんたちを中心としたメンバー。砂の上には、網に入った沢山のアサリが並べられています。
5月に行われる潮干狩りにむけて、アサリを浜にまく作業が始まりました。
アサリを、浜で育てる
袋に入ったアサリを砂におろし、トタンで囲んだエリアにまんべんなく行き渡るように、広げていきます。
砂の中にじっとしているようなイメージのあるアサリ。実はけっこう移動して、逃げてしまうこともあるので、こうして囲むのだそうです。
鳥などに食べられてしまわないよう保護するため、漁師さんたちが黙々とネットを杭で固定していきます。
アサリをよく見ると、一つ一つ、色や模様が全く違うことに気がつきます。横縞、縦縞、千鳥柄のような模様、黒っぽいもの、オレンジ色っぽいもの。時々、潮を吐き出したり、動いたりする様子も見られました。
普段スーパーで食材として買った時には気がつかなかった、海の生き物としてのアサリの姿に興味がそそられます。
このアサリは稚貝ではなくすでに成貝。2ヶ月ほど浜辺で過ごして栄養をとることでさらに美味しいアサリになり、GWころには潮干狩りが楽しめるそうです。
一方、島で稚貝を育てて浜に移す取り組みも、ゆくゆくは本格化していきたいとのこと。
前回のアマモの記事でもご紹介しましたが、漁業をとりまく環境は、地球温暖化や後継者不足などで厳しさを増していると聞きます。
そのような中、このアサリの取り組みをはじめられたことについて、大崎内浦漁業協同組合の組合長、中村修司さんにお話をお聞きしました。
以前は、大崎の海でもアサリはたくさんとれました。島の人は日常的に、春になると潮が引いた時に浜に出て、自分でアサリをとって、砂を出して食べるというのは日常だったんですよ。それがもういなくなってしまった。うちの漁業組合の女性部でも、潮干狩りで浜に入るのに入漁料というのをもらって、それを女性部の活動資金にしていたんですが、アサリがいないからそれもなくなりました。
−大崎上島に天然のアサリがいたんですね。
当たり前にいました。その頃にとれたアサリの味はスーパーマーケットで売っているものと全然違うんですよ。
今でも、ある時期にその辺の浜を掘るとこれくらい(小指の先くらい)のアサリはいっぱい見つけられるんですよ。でもそれ以上育たない。死んでしまうか、喰われてしまうかどっちかです。それくらい今は環境が整っていない。他の地域と違って島はほとんど川がないので、海が貝を育てる地力が他の地域に比べて弱いというハンディキャップがあります。
−それでも昔はアサリが沢山いたというのは、何が違うんでしょう。
海に栄養分がどれだけあるかということなんですね。例えば島の海岸が全部自然のままで、雨が降った時に土が崩れて海に落ちたら、海は豊かになるんですよ。地肌から養分が海に吸収されてね。あとは人の生活で出た有機物が海に還っていたということもありました。今は海岸もみんなコンクリート護岸なので、養分を吸収できるところが少ないんですよ。川があれば、養分を運んでくれるんですがその力も元々弱い。
アサリが食べる珪藻というものがあるのですが、今はその珪藻が増えるように栄養を加えたりと、アサリが大きくなるよう人の手を加えて工夫しています。そうして手を加えていって、もうちょっと昔の状態に戻せたらという、無謀な挑戦です。
−海辺の環境の話といえば、昔はこの浜の沖にある小島まで歩いて渡れたという話を聞いたことがあります。
それはね、実際には渡れん。アマモが6・7月になると、大きく成長するんですよ。それで、潮が引くと水深がなくなるから一面にアマモがダーっと浮いて、歩けるように見える。その上を水鳥が歩いて餌をとったりしてるからね、陸地があるように見えてそれは綺麗でした。それを取り戻したくてアマモのタネも一生懸命まいています。
−10月に長島の沖にアマモをまいたことと、今回そのすぐ近くの浜にアサリをまいたことは、何か関係があるんですか。
ここの浜でアサリを育てたり採ったりするのに、浜を耕運すると、海にも栄養が流れ出ます。アマモが減ったのは温暖化の影響もありますが貧栄養の問題もありますから、どう影響がでるかはわからないけれど、アマモにとっても好循環になるのではないかと期待はしています。それが夢物語に終わるのかわかりませんが、去年まいた種はすでにけっこう、芽を出しています。また6月くらいには皆さんに声をかけて、去年の倍は種を拾ってきて種まきをやりたい。種をまく規模をどんどん大きくしていって、5年10年続けていけたら、効果が出てくるのではないかと思います。
アマモの種をまく様子はこちらから「海に種をまく−アマモ再生に向けて−」
−今回のアサリを育てて潮干狩りをやるという試みは、大崎上島の漁業の未来にどのように繋がっていくのでしょうか。
今漁業を取り巻く環境が悪くなってきています。温暖化の影響で魚がいなくなり、漁師もどんどん高齢化していく中で、新しく人に興味をもってもらえるきっかけをつくっていきたいという思いがあります。この潮干狩り場だけでみたら、利益が出る訳ではありません。でもこれによって人の流れができて、観光ともつながり、美味しい魚を特産品として提供することもできる。そうしたきっかけをつくることで、漁業のあり方も変わってくるでしょう。「こうしたら、もっとよくなるんじゃないか」と昔の人がずっと努力をしてきて今があるんだけど、昔の通りやっていて「もうだめじゃ」と思って止まってしまったら、廃っていくだけです。
だからこうした取り組みをすることで、興味を持って来てくれる人が増え、その中で「面白いから漁業やってみようかな」という人が現れてくれたら一番いいと思っています。私はもう70歳だけど、30、40歳の人たちの中で、漁業を自分の職業にできる条件のようなものを確立できたら、それを目標にしてみんなが頑張れるような気がするんですけどね。それがまだはっきりしてないので、今回の取り組みも、そのきっかけになればいいなと思います。
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お話をお聞きしていて、人々の生活の変化や環境の変化が、海辺の生態系や漁業という生業に大きな影響を与えていることを感じました。島の方のお話によると、アサリやアマモだけではなく、カブトガニやスナメリ、タツノオトシゴなど、今ではなかなか見ることのできない生物も、暮らしの中で身近に存在していたといいます。
時代が進んで私たちの暮らしは便利になりましたが、失われてしまった風景や文化、生態系もあります。しかし一方で、今回のように海辺に豊かさをもう一度再生させようという取り組みも始まっています。
昔の風景や今の取り組みを知ることで、1人1人が暮らしや環境のことを考えるきっかけになるかもしれません。そうした「きっかけ」を作ることも、観光や旅の持つ大きな役割ではないかと、穏やかな春の海を眺めながら考えました。
聞き手 てるいひろえ・おおたともゆき
写真 Kazuhiro Sorioka
この日の様子をYouTubeでも公開しています
動画はこちらから
・潮干狩りの詳細はこちら
・漁師さんのお魚を買いたい