灯台に、会いに行く
海を見わたす場所にぽつんと立ち、夜の間ずっと、暗い海を行き交う船に向かって光を届ける灯台。
その多くは人里離れたところにあり、普段の生活では、なかなか出会うことのない存在かもしれません。
大崎上島には、明治27年から航海の安全を見守り続ける中ノ鼻灯台があります。
あるとき、私たちはインスタグラムで、中ノ鼻灯台の素敵な写真を撮り続けている方に出会いました。それは、京都からたびたび中ノ鼻灯台を訪れる、灯台マニアのゆずさんでした。
そんなふうに遠くから中ノ鼻灯台だけを目指して、島にやってくる人がいる。そのことは私たちにとって、灯台のことをもっと深く知りたい、と思うきっけになりました。
今回ゆずさんに大崎上島までお越しいただき、中ノ鼻灯台の中で、灯台にまつわるお話をたっぷり聞かせていただきました。そのお話をご紹介しながら、灯台の魅力について探っていきたいと思います。
晴れた日は青い空と海に灯台の白が映えるのですが、この日はくもり。白い空と反射で白っぽく光る海と、白い灯台のコントラストもまた素敵なのです。
そして一同ゆずさんのTシャツに注目。好きな灯台の写真をプリントしたオリジナルTシャツです。背中には、「トウダイダイタイガケニアル」という文字が。確かにその通り…!
さて、各地の灯台を訪れ、写真を撮り続けているゆずさん。きっかけは、あるとき行こうと決めた1人旅だったそうです。
「1人旅に出ようと思って初めて行ったのが出雲。出雲大社に行きたいと思ったんですよ。行く前に計画を立てていて、出雲大社だけじゃなく何があるのかなーって思ったら、灯台がある、中に入れる、日本1高い、というので、あ、日本1高いところ行ってみたいと思って。高いところ好きなので。で行ったら台風近くて、大雨だったんですけど。それが初めてだったんですよ。そこがまた日本で5つしかない1等レンズがある灯台のひとつって聞いて。じゃああと4つも行きたいなと思っていろいろ調べたら、灯台を回っている方の情報が出てきて、その情報を見ていたら面白そうと思って、行き始めました。」
「あと、もともと電車に乗ってうろうろするのが好きだったので、自分で時刻表組み立てて行くことと灯台行くのがマッチしたというのもあります。ここ行くのに「バスあるのか?」みたいな。灯台って基本的に観光地じゃないから人来ないじゃないですか。人来ない方がいいなと思って。あまりわちゃわちゃしてるところが好きじゃないので。で、その後四国に旅に出て、1番大きいレンズのある室戸岬っていう、あそこに行きましたね。その時にあと2つほど灯台行ったのかな。それからぼちぼち灯台ありきで旅に出るっていう感じになりました。」
「今までだったらメインの観光地行くじゃないですか。でも灯台メインになったのでその周りの観光地に行かなくなっちゃって。会社の方に「どこどこ(有名な観光地)は行った?」って聞かれても、「いや、そこは行ってません…すみません、灯台しか行ってません!」って(笑)」
観光地に脇目も振らずに「僻地」にある灯台を目指す旅。灯台に着いて、帰りのバスまでに数時間、ということもあるそうです。灯台を訪れたときには、どんな過ごし方をしているのでしょうか?
「写真撮って、うろうろ見て…。中ノ鼻はうろうろ回れるじゃないですか、場所によってはこっちがすぐ崖とか、草木がボーボーとかで一部の場所からしか見れないし撮れないのであまり長居はしないんです。中ノ鼻くらいですよずっといるの。管制室の前の段に座ったり、島の人にもらったみかん食べたり。」
「基本的に行った灯台はつまむのと、ジャンプするのを撮るようにしてて、何があるってわけじゃないんですけど、ただやりたかっただけで。あー跳んだなーとか、ああこの時この帽子やったなあとか、これこないだも着てたなあとか、記念ですね。1人で行くこと多かったんで、灯台と一緒に撮ってもらうってないじゃないですか。自撮りしかないんで、じゃあもう跳んどこ!みたいな(笑)」
次のバスが来るまで、灯台で過ごす。刻一刻と変化する灯台の表情にも、魅せられるものがあるといいます。
「同じところからさっき撮ったけど、時間によって全然見え方が変わってくるので、2時間3時間いても飽きないというか。あれ、もうさっきと違う、太陽当たってる!とか。光り始めと暗くなり始めた時で、光源は同じなんですけど周りの暗さが変わってくると光の強さも変わってくるので。またちょっとカメラのレンズ変えなきゃって感じで、うろうろしてますね。」
ペンライトを使った「メリークリスマス」(ゆずさんのインスタグラム@yuzu_mamechaより)
そんなゆずさんと中ノ鼻灯台との出会いは、意外なところにありました。ドラマの中にロケ地として中ノ鼻灯台が登場したのを観たのがきっかけなのだそうです。
「イメージ的に大きい灯台に行っていたので、すっごい小さいと思ってたんですよ、中ノ鼻灯台。でもドラマで人が座ってるシーンを見て「あれ、意外と大きいぞ?」と思って。そこまで興味があるわけじゃなかったんですけど、でも行ってみようとなって、母と一緒に初めて来たんですよ。で、来たらなんか「大きいぞ?」って思って。大きいし、今みたいにきれいになってなくてもっと錆びついていて、あれがまたね、私の中でよかったんですよ。なんかこう経年劣化じゃないですけどすごいよくって。また来たいと思ってちょくちょく来るようになったんですね。」
「で、また来た時が塗り直しされていて、上の避雷針のところが直されていて、つんつるてんだったんです。灯台の工事してますって看板があるけど、どこを工事しているのかぐるぐる見てもわからなくていたら、あれ?と思って。「てっぺんないやん!」って。次また来た時はきれいになっていて、「きれいきれい」と思って。」
ゆずさんが初めて訪れた時の中ノ鼻灯台(ゆずさんのインスタグラム@yuzu_mamechaより)
そうなのです、中ノ鼻灯台は数年前まで今のように綺麗に塗装されておらず、錆びのついたような状態でした。その姿もまた、何か惹きつけるものがあります。そして避雷針がない姿を見れたのいうのも、なかなか貴重ですね。
そして、ゆずさんのインスタグラムの中で灯台の写真とともに目を惹きつけるのが、手作りの灯台グッズたち。刺繍やハンコなどの作品は、どれもとても丁寧でかわいらしいのです。それぞれの灯台の特徴をよく捉えられていて、愛を感じます。
灯台消しゴムはんこたち。中ノ鼻灯台を囲う壁のゴツゴツ感がたまりません。(ゆずさんのインスタグラム@yuzu_mamechaより)
「灯台グッズは、キーホルダーとかを買っていたけど買って満足してその辺置いちゃう。灯台のグッズって売ってるのがだいたいキャラクター的なものなんですけど、私は「この灯台の(中ノ鼻なら中ノ鼻灯台の)グッズがほしい」というので消しゴムハンコを作り始めた。でも彫って、押して満足なのでケースにいれたままです(笑)」
こちらの素敵な刺繍とハンコ、2023年10月29日に行われる中ノ鼻灯台一般公開の日に、ゆずさんが撮ってきた四季の灯台写真と一緒にホテル清風館にて展示されます。
この機会にぜひ、ご覧ください。
写真展「中ノ鼻灯台と四季の情景」 令和5年10月29日(日)10:00~15:00 ホテル清風館の館内にて
中ノ鼻灯台一般公開についてはこちら
こちらも可愛らしくて完成度の高い刺繍(ゆずさんのインスタグラム@yuzu_mamechaより)
灯台一般公開では、灯室に入ってレンズも間近に見ることができます。中ノ鼻灯台のレンズには浅瀬を知らせるための赤い線が付いていて、その赤い光を届けるために、灯りがLEDに変わる灯台もあるなか、フレネルレンズが現役で使われています。このレンズも、灯台の大きな魅力のひとつです。
「どんどんLEDとか、光が長持ちするやつに変わってきているので。変わっていくのは仕方ないと思うんですけど、見たらやっぱり、「ああいいな」って思います。やっぱり灯室の中に入ってるのが一番いいなと思って。光ってなくても、太陽の光で虹色にキラキラしたりするので。」
まるで宝石のような灯台のレンズ。心臓の鼓動のように思えたり、その時の気持ちで光る間隔が違って見えたり…レンズの伝える光には、生き物の持つリズムのような安心するゆらぎを感じます。
夕暮れと、光だす中ノ鼻灯台(ゆずさんのインスタグラム@yuzu_mamechaより)
そして最後に。これからは日の入りも早くなり、灯台の光る姿に出会える時間が、長くなってきます。ゆずさんも、冬に灯台を訪れることが多いそうです。
「これから冬の季節になって、日が沈むの早いじゃないですか。電車とかバスって、たとえば19時で最終バスだったら、夏だったらまだ明るくて、灯台が光り出さない。でも冬になったら、17時くらいで暗くなって、ちょうど良い感じに灯台も光ってマジックアワーを撮れて、バスに間に合う。冬の方が見れる時間長いし、澄んでる。寒いですけどね。」
確かに、冬は清風館に行った帰りなど、灯台が光っている姿を自然に目にすることが多い気がします。暮れてゆく海と空に包まれながら、静かに点灯を始める灯台と過ごす時間を、のんびり味わってみてはいかがでしょうか。(くれぐれも風邪をひかぬよう、お気をつけて…!)
みんなで中ノ鼻灯台を眺める。ゆずさんの言う通り、写真だと小さく見えますが囲いの中に入ると頭から下がすっぽり収まるくらい、意外と大きいのです。
ゆずさん、ありがとうございました!!
ゆずさんとのお話がラジオになってYoutubeで公開されています。こちらには載せきれなかった楽しいお話がまだまだたくさん。そちらもぜひご視聴ください!
一般公開直前ラジオ!灯台マニアのゆずさんと中ノ鼻灯台で話す|こちラジ vol.4
合わせて読みたい
灯台の昔の記憶をたどった記事「藤岡さんと中ノ鼻灯台のおはなし」